第18回:妊婦とポーションコントロール法(1回目/3)

111弁当箱法

~妊婦の食事療法の基礎~

妊婦に対する食事療法は、妊娠中の「適切な体重増加・胎児の健全な発育」と「母体の良好な血糖コントロール」を目的として重要な役割を担っています。

日本では栄養指導法や食事療法に選択肢が少なく、様々な状況下にある妊婦のニーズに対応するためには、少しでも多くの選択肢が必要です。また、妊娠中は、比較的短期間で食事療法を習得あるいは修正する必要が生じるため、できるだけ簡単な方法が望まれます。その簡便な食事療法として私達が提案するのが111弁当箱法です。

今回から3回に分けて、妊娠中の食事療法としてのポーションコントロール法、特に111弁当箱法の活用について説明します。

今回は基礎編として、妊娠中の栄養管理に関する基礎知識と最近の動向について説明します。次回は、実践編として、妊婦における111弁当箱法のメリットと実践方法について、最後に、海外編として、妊婦に対する欧米でのポーションコントロール法の実施状況を紹介します。

妊婦における食事療法の重要性

肥満や妊娠中の不適切な体重変化および高血糖状態は、母児の周産期合併症のリスクを高めることが知られています (1, 2)。妊娠中の過剰な体重増加は、妊娠糖尿病や、妊娠高血圧症候群、巨大児、産後の体重増加、将来の肥満、母体および新生児の糖尿病や心臓疾患等と関連し、高血糖状態は、母体に対して、糖尿病合併症(腎症、網膜症)の増悪や、流産、死産、妊娠高血圧症候群等のリスクとなり、新生児に対しては、先天性形態異常、出生後低血糖症、巨大児、胎児発育不全、呼吸窮迫症候群等のリスクとなります。

そのため、そういったリスクを持つ妊婦では、母体における妊娠中の適切な体重増加と血糖状態を達成するために、主治医や管理栄養士と相談しながら食事をコントロールする必要があります。特に、妊娠中に糖尿病に至らない耐糖能異常を指摘された「妊娠糖尿病」から、妊娠中に糖尿病を発見された「妊娠中の明らかな糖尿病」、妊娠前から糖尿病と診断されている「糖尿病合併妊娠」まで、あらゆる分類・ステージの糖代謝異常合併妊娠では、妊婦に推奨される血糖降下薬が、日本では原則インスリン療法のみであることや (3)、糖代謝異常合併妊婦の体重管理の目安が一般妊婦と比べてより厳しくなることから(表1)、一般糖尿病患者や一般妊婦と比べて、食事療法が担う役割はより大きいと言えます。

妊娠中の食事療法の特徴

妊娠中は、母体の消費エネルギーに加え、胎児の発育のためのエネルギーを確保するために、妊娠期に応じたエネルギー付加が必要となります。胎児の健全な発育を維持しながら、母体の不適切な体重増加や高血糖状態を抑制しなくてはならず、過不足のない適正なエネルギー摂取を保つ必要があります。また、胎児の主なエネルギー源はブドウ糖であるため、母体は胎児に優先的にブドウ糖を供給しようとします。そのような状況下で、血糖上昇を抑制するためといって極端な炭水化物制限を行うと、母体ではブドウ糖が欠乏し、それに代えて脂質を分解してエネルギーを確保しようとするため、過剰な脂質分解によってケトン体の上昇を招くことになります。そのため、妊婦の食事では、炭水化物率も適正(50-60%)に保つ必要があり、量としては1日175g以上の炭水化物摂取が必要(目安)とされています (2, 4)。 本項の主旨ではないため、詳細は省きますが、更にその他、葉酸、鉄、ビタミンなどの栄養素も妊娠期に応じた付加が必要となりますので、それらに留意した食品の選択を考慮する必要もあります。

妊婦の栄養量設定(最近の動向を含めて)

日本における「妊婦中の必要エネルギー量」の設定では、目標体重[身長(m)×身長(m)×22]×30kcalを基本に、非肥満妊婦の場合は、妊娠各時期(初期、中期、末期)に対応するエネルギー量を付加し、肥満がある場合はエネルギー量を付加しないとされています(表2)。この設定は、一般妊婦だけでなく、糖代謝異常合併妊婦に対するガイドラインでも採用されていますが (4)、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」に準拠して作成されたものであるため、一般妊婦に比べてより厳格な栄養管理が必要となる糖代謝異常合併妊婦においても妥当といえるかは不明です。現在、糖代謝異常合併妊婦の体重増加の目安が見直され(5)、一般妊婦のそれと比べて厳しくなることから(表1)、糖代謝異常合併妊婦における妊娠中の付加エネルギー量についても、今後見直される可能性があります。いずれにしても、臨床現場において重要なのは、母児の状態に応じた臨機応変な栄養調整を行うことです。

妊婦に対する食事療法の種類

米国やカナダなどでは、妊娠中に安全に実施可能で過剰な体重増加を抑制できる食事療法として、数日~1週間単位のMeal Planning法、地中海食、低グリセミック指数(GI)食、DASH食、ポーションコントロール法等が採用され (6)、妊婦個人としてもインターネット等からこれらの食事療法に簡単にアクセスできる環境が整っています。

しかし、日本では、糖代謝異常のない妊婦に対しては、日本産婦人科診療ガイドラインにて「現時点では厳しい体重管理を行う根拠となるエビデンスは乏しく、個人差を配慮してゆるやかな指導を心掛ける」としているためか (1)、特定の栄養指導法や食事療法が準備されていません。一方、厳格な管理が必要な糖代謝異常合併妊婦に対しては、適正なエネルギー量と栄養素バランスを達成するために、「食品交換表」を用いた食事療法(food exchange method)や、炭水化物(糖質)のコントロールを中心に置いたカーボカウント法による食事療法(基礎カーボカウント)が行われ、更にこれらの食事療法をベースに、分割食が行われています。しかし、食事療法の選択肢は非常に少なく、個人の理解度や多様な状況に対応できる環境にありません。欧米では、糖尿病の有無にかかわらず、妊婦の食事療法にポーションコントロール法が多用されています。我々は、日本版ポーションコントロール法である111弁当箱法が、一般妊婦に対する簡易な栄養指導法・食事療法として、そして糖代謝異常合併妊婦に対しても、従来の食事療法や分割食をサポートする新たな選択肢になり得ると考えています。

次回内容:妊婦におけるポーションコントロール法の活用

今回、妊婦に対する食事療法の特徴と注意点について概説しました。日本のガイドラインや診療マニュアルでは、提示される食事療法の種類が少なく、様々な状況下にある妊婦の食事をサポートするためには、欧米のように多種多様な食事療法が提案されるべきです。次回では、日本版ポーションコントロール法である111弁当箱法の、妊婦の食事療法としてのメリットとその活用法について解説したいと思います。

引用文献

1.            日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編. 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023. 東京: 杏林舎; 2023. P46-49.

2.            日本糖尿病学会編. 糖尿病診療ガイドライン2024. 東京: 南江堂; 2024. P355-393.

3.            日本糖尿病・妊娠学会編. 第4版 妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル. 東京: メジカルビュー社; 2025. P86-89.

4.            日本糖尿病・妊娠学会編. 第4版 妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル. 東京: メジカルビュー社; 2025. P163-165.

5.            日本糖尿病・妊娠学会編. 第4版 妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル. 東京: メジカルビュー社; 2025. P169.

6.            Ketchum K, Jevitt CM. Evidence-Based Eating Patterns and Behavior Changes to Limit Excessive Gestational Weight Gain: A Scoping Review. Int J Environ Res Public Health. 2023;21(1):15.

7.            日本糖尿病・妊娠学会編. 第4版 妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル. 東京: メジカルビュー社; 2025. P166-168.

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