ポーションコントロールツールの種類とエビデンス

111弁当箱法

ポーション・コントロール・ツールは、食事計画を促進し、配膳時に不適切なポーション・サイズの誤認を修正することによって、これらの要因を調整するのに役立つと考えられますが、市販されているポーション・コントロール・ツールのすべてが科学的に有効であると示されている訳ではありません。この分野の信頼できる研究報告はまだ少なく、十分な情報があるとは言いがたいですが、主に近年報告されたレビューを基に(Nutrients 2021;13:1978、Obes Res Clin Pract  2021;15:106-113, Nutrients  2022;14:892)、ポーション・コントロール・ツールのエビデンスを紹介します。(2024年8月20日)

ポーションコントロールツールの分類とエビデンス

ポーションコントロールツールは、大きく分類して食器類とその他に分けられ、食器類では、①ポーションコントロールプレート・ボウル、②グラス、③カトラリー、④サービングツール(取り分け用スプーンやトレイ、ディスペンサー等)、その他として、⑤画像ベースの教育ガイド、⑥テクノロジー(ソフトウェアまたはウェブサイト)、⑦調理器具(計量ポットや計量スプーン)に分類されます(Nutrients 2021;13:1978)(図1)。

1)ポーションコントロールプレート・ボウル

小さい皿(通常直径25cm)とボウルは、ポーションコントロールに有効であることが臨床研究によって示されています。しかし、その利用には幾つかの条件が必要になるようです。これらのポーションコントロールツールは、他のダイエット戦略と併用した場合にその有効性を発揮し、自分で食べ物を盛り付けないことや、“おかわり”をすること等の状況はその効果を打ち消すことにつながります。

更に、単にサイズが小さいだけではなく、想定されるエネルギー量になるようにサイズ調整され、ガイドや目盛りが印刷されたプレート(図2A)や、各食材領域が凹んだプレート(図2B)ではより効果が高いことが示されています。これらのほとんどのプレートは、皿の半分を野菜に、4分の1をタンパク質に、4分の1を炭水化物に割り当てたデザインになっており、食材で分割したそのデザインのおかげで、過剰に摂取されがちな食事成分 (炭水化物やタンパク質など) の分量を制御しながら、野菜などの望ましい食品の分量を増やすのに役立ち、最終的に教育的補助用具としての役割も担います。

このプレートモデルは実用的な栄養教育ツールであり、現在では世界中の多くの食事ガイドラインに取り入れられています。2次元 (2D) モデル(図3)は、適切な分量について一般の人々を教育するために広く使用されていますが、3次元 (3D) ポーションプレート(図4)を使用することで、ユーザーはこの食事理論を実際に体現できます。概念的な2Dモデルも、食事中に使用される3Dプレートも、ポーションコントロールツールとしての有効性が示されています(Nutrients  2022;14:892)。

ポーションコントロールプレートが不健康な食事の是正や、肥満者の減量、2型糖尿病等の生活習慣病患者での病態改善に有効であることが多くの臨床試験で示されていますが、現時点ではその解釈に注意が必要です。ポーションプレートは、ほとんどの研究で栄養介入や健康教育の一部として使用されていたため、それ単独での有効性については、情報が不足しており不明なままです。ポーションコントロールプレートのみの有用性について、さらなる調査が必要な現状があります。

2)グラス(形状とサイズ)

人々はグラスの相対的な満杯度合いで容量を判断するため、グラスの形状と容量の両方が、認識される容量に影響を与える可能性があります。しかし、飲料の種類(ソフトドリンクかアルコールか等)やシチュエーション(ワインでは飲む状況が重要であったり、レストランではグラスよりもボトルで飲量が決まる等)の影響要因が多いため、グラスの形状とサイズによる飲料の消費コントロールについては、その可能性はあるものの一般化できる結論は示されていません。

3)カトラリー(フォークやスプーン)

小さなカトラリーは一口サイズと摂食速度を減らすのに役立ち、量を気にせず自由に食べられる状況下では、消費される食物の量が少なくなることが示されていますが、多くのシチュエーションでは摂取量を決めるのは提供された食物の総量であるため、食器のサイズが摂取量に直接影響を与え、小さなカトラリーの効果は表面に現れにくいと考えられます。小さなスプーンは小さめのボウルと組み合わせて使った場合に、食事量のコントロールに役立つ可能性が報告されています。

4)サービングツール

容量調整された「取り分け用スプーン」などの分量コントロールを目的としたサービング器具についても、ポーションコントロールプレートと同じ効果が得られる可能性はありますが、現時点では十分なエビデンスはありません。

5)食事量コントロールの教育ガイドと測定ツール

教育的補助器具は、画像ベースのツールであり、あらかじめ分量が示された食事図、手書きの分量ガイド、食品レプリカの分量ガイドが含まれます。食事量コントロールの教育ガイドと測定ツールの使用は、食事摂取量と体重のコントロールにそれほど効果的ではないようです。しかし、測定ツールと教育技術を組み合わせることで、推奨される分量についての認識と学習が向上し、最終的にはポーションサイズを基にした食行動の改善につながる可能性が期待されています。

6)ウェブベースまたはモバイルアプリケーション

テクノロジーを利用したこれらツールの利用は、食事推奨量についての教育や栄養プログラムの順守のために期待されています。しかし、残念ながら、2021年のレビューにおけるメタ解析では、これらを用いた介入は、ポーションサイズの意識に有意な影響を与えないと報告されており(Nutrients 2021;13:1978)、2024年8月現在でも、有望な可能性を示した報告は散見されるものの、臨床的に意義のある(効果量の大きな)有効性が示されたものはありません。しかし、個別化した教育ガイドや自動測定ツール等、AI等を用いた新たなモバイルアプリケーションの開発と利用は増加しており、実際の食事でのポーションコントロールにも利用できる有効性の高い技術が開発されるのはそれほど遠い未来ではないでしょう。

7)調理器具(計量ポットや計量スプーン)

計量ポットはシリアル、米、パスタなどの穀物の量を管理し、計量スプーンは油やバターなどの高カロリー脂肪を計量するのに役立つと考えられますが、ポーションコントロールに関する有効性についての有用なエビデンスは示されていません。

111弁当箱法は、ポーションコントロールツールの中でどこに分類されるか

私達が提唱する111弁当箱法は、これらポーションコントロールツールの中でも効果が高いとされる「調整されたガイド付きポーションコントロールプレート・ボウル」に含まれると考えています。そして、通常のプレート法では食材の積み重ねやガイドからのはみ出しによって、エネルギー量や栄養組成が大きく変動し、「ルールの緩み」が生じ易いですが、111弁当箱法では、そもそも弁当箱に立体的な制約(高さが決まっている)があり、重量による調整も併用できるため、個人の理解度の違いや長期使用によるポーションサイズ調整の歪みや緩みはより小さくなると考えられます。

ポーションコントロールプレートを用いた食事プログラムの継続性

ポーションコントロールプレートの有効性が多くの臨床試験で示されていますが(Nutrients 2021;13:1978、Obes Res Clin Pract  2021;15:106-113, Nutrients  2022;14:892)、全ての食事プログラムが抱える課題と同じく、この簡便な方法においても継続性の問題があります。ある研究では、ポーションコントロールプレートを用いたダイエットの6ヵ月時点の離脱率は35%と報告されており、これは肥満に対する一般的な行動療法における6ヵ月以内の離脱率の平均値22%よりも高い離脱率と考えられます(Int J Obes Relat Metab Disord. 2004;28(5):697–705)。しかし、同時にこの研究対象者の42%が、研究終了後もポーションコントロールプレートを使用し続けると回答しており、これは、ほとんどの肥満患者が6ヵ月を超えて食事プログラムを遵守しないことを考慮すると、明らかに高い継続率と考えられます。一見相反するこの現象は、ダイエットする人とポーションコントロールプレートとの相性がはっきり分かれていることを示しています。

最後に

ポーションコントロールツール、特にプレート法は、広く世界中の食事ガイドラインに取り入れられ、不健康な食事の是正や、肥満者の減量、2型糖尿病をはじめとした生活習慣病患者での病態の改善に有効性を発揮することが示されています。プレート法や我々が提唱している111弁当箱法は簡単に始められる方法なので、一度試してみるというスタンスで始めてみるのも良いかもしれません。

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