―ポーションコントロールによる対策ー
近年、GLP-1製剤の臨床応用によって肥満症治療が大きく進歩しました。しかし、GLP-1製剤が中止された後の体重再増加(リバウンド)が問題になることが少なくありません。最近明らかになってきたGLP-1製剤中止後のリバウンドの実態と、ポーションコントロールによる対策について解説します。
はじめに
従来、肥満症に対する有効な薬物療法は限られていました。しかし近年、糖尿病治療薬として開発されたグルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 receptor agonist:GLP-1RA)が肥満症治療にも応用され、治療戦略は大きく変化しています。
GLP-1RAは優れた減量効果を示す一方で、費用や忍容性の問題から治療継続が困難となる場合があります。また、日本の保険診療では、セマグルチド(商品名:ウゴービ)の投与期間は68週間、GIP/GLP-1デュアル受容体作動薬であるチルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)は72週間に制限されているため、投与中止後の体重再増加(リバウンド)が重要な課題となっています。近年、GLP-1RA中止後の体重変化を主要評価項目とした臨床研究や系統的レビュー・メタ解析が相次いで報告され、その実態が明らかになりつつあります。本稿では、これらの知見を踏まえ、GLP-1RAによる肥満症治療におけるポーションコントロールの役割について解説します。
GLP-1RA投与中止後には急速なリバウンドが生じる
行動療法を中心とした体重管理プログラムと比較した系統的レビュー・メタ解析において、セマグルチドおよびチルゼパチド治療中止後の体重変化が検討されています(1)。GLP-1RA群では、治療終了時点で平均14.7kgの減量が達成されました。しかし、投与中止後は月平均0.8kgのペースで急速に体重が再増加し、約1.5年で治療開始時の体重に戻ることが示されました(図1)。一方、低エネルギー食と身体活動増加を支援する行動療法のみの場合、減量幅は平均5.1kgと小さいものの、体重再増加は月平均0.1kgと緩徐であり、ベースライン体重に戻るまで約3.9年を要しました。

GLP-1RA治療中の行動療法は減量を促進するが、行動変容には直結しない
同レビューのサブ解析では、GLP-1RA治療中に行動療法を併用した群は、非併用群と比較して平均4.6kg多く減量していました。しかし、投与中止後の体重再増加率は、行動支援の強度による差を認めませんでした。
この結果は、GLP-1RA治療中の行動療法が減量効果を増強する一方で、持続的な行動変容には十分つながらない可能性を示唆しています。GLP-1RA投与中は食欲抑制や代謝改善によって食事療法や運動療法を実践しやすくなるため、行動療法の必要性を患者自身が感じにくくなり、結果として自己管理スキルの獲得が不十分になるのかもしれません。一方、薬物療法を伴わない行動療法は、減量後のリバウンドを遅らせる効果を有することが示されています。
短中期のGLP-1RA治療では体重セットポイントはリセットされない
36週間のチルゼパチド投与後の経過を詳細に検討した研究では、投与中止52週後に24%の参加者が治療前体重まで戻り、58%では体重増加傾向が継続していました(図2)(2)。最大減量量の25%以上の再増加をリバウンドと定義すると(3)、リバウンド率は82%に達し、生活習慣介入による減量後のリバウンド率(80%以上)とほぼ同等でした(4)。

GLP-1RA中止後には、食欲亢進やエネルギー消費抑制を伴う体重防御機構が再び活性化し、記憶された体重セットポイントへ向かって体重が再増加します。この体重防御機構は減量成功後に長期間持続することが知られており、減量後の空腹感増強や満腹感低下は少なくとも62週間持続し(5)、数年以上継続する可能性があります(6)。さらに、減量後の代謝低下(代謝適応)も6年後まで持続することが報告されています(7)。
近年、GLP-1RAが肥満や糖尿病に伴う視床下部慢性炎症を抑制し、恒常性調節機構を改善する可能性が動物実験で示唆されています(8)。しかし、36週間のGLP-1RA治療後のリバウンド率が生活習慣介入と同等であったことから、短期間のGLP-1RA治療のみで体重セットポイントがリセットされる可能性は低いと考えられます。さらに、系統的レビュー(1)に含まれた研究の最長投与期間が176週であったことを考慮すると、少なくとも3~4年間の治療でも体重セットポイントの恒久的な修正は困難と考えられます。
行動変容を促す行動療法
長期的な体重維持において重要なのが、行動療法(Behavior Therapy:BT)あるいは認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)です。肥満症診療ガイドラインでは、食事療法、運動療法、行動療法の三本柱が基本治療として位置づけられています(9)。
食事療法や運動療法の有効性は確立されていますが、それらを長期間継続し習慣化することは容易ではありません。BT/CBTは、適正体重維持の重要性を理解し、そのための具体的な方法を習得することで、望ましい生活習慣の定着を支援します。
GLP-1RAは体重防御機構を一時的に抑制し、食事療法や運動療法を実践しやすくします。しかし、それだけでは真の意味での行動変容が達成されたとは言えず、治療中断後には高率にリバウンドが生じます。そのため、BT/CBTによる行動変容スキルの習得と強化が不可欠です。
BT/CBTとポーションコントロール
BT/CBTには、①セルフモニタリング、②ストレス管理、③刺激統制、④問題解決、⑤報酬による強化、⑥認知再構成、⑦社会的支援という主要な構成要素があります(9,10)。ポーションコントロール法では、弁当箱や皿が食事量の基準として機能するため、適正な摂取量を視覚的に評価することができ、セルフモニタリングの手段となります。また、刺激統制の観点からも、「自分が食べる分だけを器に盛る」という行動は、ユニットバイアスやデルブーフ錯視、さらには規範的手がかりの想起を通じて過剰摂取を促す刺激を低減し、適切な食行動の形成につながります(11)。
さらに、行動変容には「意欲」「知識」「技術」の3要素が重要であるとされています(12)。まず、本人の「変わりたい」という意欲が不可欠であり、正しい知識の習得はその意欲を高める要因となります。ポーションコントロール法は、適切な食事量や栄養バランスを具体的かつ簡便に理解できるため、実践的な知識の獲得を支援します。また、「自分にも実践できそうだ」という自己効力感は行動変容の動機づけにつながります。そのためには実践のハードルが低いことが重要とされ、ポーションコントロール法は、容器や皿に適量を盛り付けるだけで実施できるという簡便性を有しています。さらに、「技術」とは、適切な行動を継続するための具体的な方法やスキルを指し、前述したBT/CBTの各構成要素そのものが、行動変容を支える実践的技術に相当します。
最後に
弁当箱栄養管理法を含むポーションコントロール法は、BT/CBTの要素を取り入れた実践的な食事療法と位置づけることができます。GLP-1RA治療との併用により減量効果の向上が期待できるだけでなく、治療停滞期やリバウンド期の追加介入としても有用と考えられます。ポーションコントロール法は、肥満症治療のあらゆるステージにおいて行動変容を促進し、長期的な体重管理を支援する有望な治療戦略の一つと考えられます。
引用文献
1. West S, Scragg J, Aveyard P, Oke JL, Willis L, Haffner SJP, et al.Weight regain after cessation of medication for weight management: systematic review and meta-analysis. Bmj. 2026;392:e085304.
2. Horn DB, Linetzky B, Davies MJ, Laffin LJ, Wang H, Murphy MA, et al.Cardiometabolic Parameter Change by Weight Regain on Tirzepatide Withdrawal in Adults With Obesity: A Post Hoc Analysis of the SURMOUNT-4 Trial. JAMA Intern Med. 2026;186(2):157-67.
3. El Ansari W, Elhag W. Weight Regain and Insufficient Weight Loss After Bariatric Surgery: Definitions, Prevalence, Mechanisms, Predictors, Prevention and Management Strategies, and Knowledge Gaps-a Scoping Review. Obes Surg. 2021;31(4):1755-66.
4. Adeola OL, Agudosi GM, Akueme NT, Okobi OE, Akinyemi FB, Ononiwu UO, et al.The Effectiveness of Nutritional Strategies in the Treatment and Management of Obesity: A Systematic Review. Cureus. 2023;15(9):e45518.
5. Sumithran P, Prendergast LA, Delbridge E, Purcell K, Shulkes A, Kriketos A, et al.Long-term persistence of hormonal adaptations to weight loss. N Engl J Med. 2011;365(17):1597-604.
6. Rosenbaum M. Appetite, Energy Expenditure, and the Regulation of Energy Balance. Gastroenterol Clin North Am. 2023;52(2):311-22.
7. Fothergill E, Guo J, Howard L, Kerns JC, Knuth ND, Brychta R, et al.Persistent metabolic adaptation 6 years after “The Biggest Loser” competition. Obesity (Silver Spring). 2016;24(8):1612-9.
8. Marinho TS, Bittencourt JOA, Aguila MB, Mandarim-de-Lacerda CA. Tirzepatide reverses hypothalamic inflammation, cellular stress, and neuropeptide imbalance in metabolic-menopausal dysfunction. Brain Res. 2026;1872:150113.
9. 日本肥満学会編. 4行動療法、第5章 肥満症の治療と管理. 肥満症診療ガイドライン2022. 東京: ライフサイエンス出版; 2022:63-9.
10. リッカルド・ダッレ・グラーヴェ、マッシミリアーノ・サルティラーナ、マルワン・エル・ゴッチ、シモーナ・カルージ. 2章 治療の概要. CBT-BT 肥満に対する認知行動療法マニュアル. 東京: 金子書房; 2019:13-26.
11. 福本真也. 患者に伝わるポーションコントロール 1:1:1弁当箱栄養管理法のススメ(第10回) ポーションコントロール法に隠された原理. Nutrition Care. 2026;19(2):180-3.
12. 足達淑子. I-4 習慣はどうしたら変えることができるか. ライフスタイル療法IIー肥満の認知行動療法 第三版. 東京: 医歯薬出版株式会社; 2023:8-9.

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