第17回:PC法に隠された心理的戦略

111弁当箱法

~あなたは無意識にコントロールされている~

ポーションコントロール法の原理の説明としては、食事のエネルギー量やその栄養素バランスに注目して記載された文献ばかりですが、それ以外にもいくつかの心理的戦略が隠されています。今回は、その隠された戦略について整理し説明します。

同テーマは、以前にもブログ掲載していますが、雑誌への掲載用として再編集し、読みやすくなったと思いますので、再度掲載しています。

ポーションコントロール法に仕掛けられた潜在的戦略

ポーションコントロール法、特にプレート法を成立させる主要な原理は、適切なポーションサイズと適切な食品群割合をシンプルな視覚的メッセージとして提案することです。しかし、この物理的な原理以外に、ポーションコントロール法には幾つかの心理的な原理/仕掛けが隠されています。今回はそれら潜在的な仕掛けについて解説したいと思います。

3つの心理的原理

ポーションコントロールツールには少なくとも3つの心理的な原理が機能していると考えられます。Unit bias(ユニットバイアス)現象と、視覚的効果のDelboeuf illusion(デルブーフ錯視)、規範的手掛かりの想起です。

1) Unit bias(ユニットバイアス)現象

ユニットバイアス現象とは、一つにまとまった最小単位(unit)を適切あるいは標準的な分量と安易に認識してしまうことをいい (1)、そのために、ユニット毎に食事を完食して終了する傾向が見られます。ポーションコントロールツールを成立させる重要な原理です。例えば、ポテトチップスの袋が山積みにされて、自由に食べて良い状況があっても、1袋分を完食してそれ以上は食べないという人が多いと思います(図1)。それは、レギュラーサイズの袋の場合だけでなく、ラージサイズになっても1袋分を完食しようとするでしょうし、スモールサイズであっても1袋分で食行動が完結し2袋目に手を出す人は少ないのです。このことは、ユニットバイアス現象によって食事量をコントロールできる可能性を示しています (1)。実際に、ボウルや皿で提供された1食分は1unitとして認識されるようで、一定の条件内であれば、ボウルや皿の大きさによって食事量は自己調節され、少くなった1食分でも食事は完結し、最終的に食事摂取量が抑制されるという研究結果が、小児や成人で報告されています (2, 3)。しかし、注意が必要なのは、人は大きなunitを許容しやすいのですが、小さいunitには容易に許容しがたくなることです。1unitが小さすぎるとそれを1ポーション(1人前)とは捉えず、この現象は破綻し、何回もお代わりすることになります。お皿にブドウを1粒だけ置かれても、それを1人前として納得する人はいないでしょうし、ポテトチップスの袋が更に小さなミニサイズになれば、満足するまで何袋も食べ続ける人が増えることでしょう。

    ユニットバイアス現象をより有効に活用するためには、ある程度妥当な量のunit設定とその提示が必要になります。3Dプレート法によるサイズ設定が、一般的なディナープレートよりも過度に小さくならないように設定されている(ブログ第16回)のはこのためかもしれません。また、111弁当箱法では、個人に適した弁当箱サイズを設定できるため(ブログ第2回)、1 unitの妥当性を更に合理的に認識させることができます。

    Delboeuf illusion(デルブーフ錯視)

    デルブーフ錯視は、プレートタイプのポーションコントロールツールで主に機能します。同じ大きさの料理でも大きな皿に盛ると実際よりも小さく見え、小さい皿に盛ると料理が大きく見えるという錯覚現象のことです(図2)。これをビュッフェで検証した臨床試験によって、客は大きい皿を使うと実際よりも少なく見積もるために、最終的に多く食べてしまい、逆に小さい皿では料理の見積もり量が実際よりも多くなるため、食事摂取量は少なくなることが報告されています (3, 4)。視覚的な錯覚を利用して小さなunitを達成しやすくするために使われます。

       111弁当箱法における活用術としても、弁当箱に食材を詰める時や食べる時に、食材と弁当箱の外枠との間に隙間がないようにすることが大切で、そのため、弁当箱サイズの選択で迷う時は、やや小さめのサイズを選択した方が、弁当箱内に隙間ができず、食事に満足感が得られやすいかもしれません。

      規範的手掛かりの想起

      規範的手がかりの想起による摂食行動の抑制効果も重要です。摂食行動の調節機構には、食欲に関係する生理的な摂食調節機構である恒常性調節と快楽的調節があり、理性的存在である人間では更に摂食規範が摂食行動に強く影響を及ぼすことが知られています(ブログ第13回)。規範的コントロールは、「食べ過ぎを避けたい」という動機と、適切な食事量の判断基準(摂食規範)に基づくものです。そして、この摂食規範は学習、強化、修正できることから、破綻した食欲による摂食調節を補う手段の1つとして期待されます。そもそも、食事量の制御に関して、食事中の調節機構(例えば、胃の伸張のような食後フィードバック)の役割は比較的小さく、食事開始前になされる意識的あるいは無意識の食事計画によって食事量の大部分が決定されていると考えられています (5, 6, 7)。すなわち、摂食規範の無い自然にまかせた食事をすれば、食事中に満腹感が出現する頃には、既に食べ過ぎた状態になっており、手遅れなのです。一方で、食事の直前に過去の食事を思い出すことや将来の食事を想起することが、今から食べる食事の規範的手掛かりとして働き、食事量に抑制的効果をもたらすことが示されています (8)。自分にとって適切な食事量や食品割合を意識させるポーションコントロールツールには、これから食べる食事への規範想起の役割や食事計画を習慣付ける教育的役割が期待できます。

      まとめ

      ポーションコントロールツールは、単に適切な食事量を準備するという目的だけでなく、上記のような原理を用いて、無意識下に摂食行動をコントロールするように工夫されたものと言えます。

      引用文献

      1.            Geier AB, Rozin P, Doros G. Unit bias. A new heuristic that helps explain the effect of portion size on food intake. Psychol Sci. 2006;17(6):521-5.

      2.            Wansink B, van Ittersum K, Payne CR. Larger bowl size increases the amount of cereal children request, consume, and waste. J Pediatr. 2014;164(2):323-6.

      3.            Wansink B, van Ittersum K. Portion size me: plate-size induced consumption norms and win-win solutions for reducing food intake and waste. J Exp Psychol Appl. 2013;19(4):320-32.

      4.            Hughes JW, Goldstein CM, Logan C, Mulvany JL, Hawkins MAW, Sato AF, et al.Controlled testing of novel portion control plate produces smaller self-selected portion sizes compared to regular dinner plate. BMC Obes. 2017;4:30.

      5.            Fay SH, Ferriday D, Hinton EC, Shakeshaft NG, Rogers PJ, Brunstrom JM. What determines real-world meal size? Evidence for pre-meal planning. Appetite. 2011;56(2):284-9.

      6.            Brunstrom JM. Mind over platter: pre-meal planning and the control of meal size in humans. Int J Obes (Lond). 2014;38 Suppl 1(Suppl 1):S9-12.

      7.            Forde CG, Almiron-Roig E, Brunstrom JM. Expected Satiety: Application to Weight Management and Understanding Energy Selection in Humans. Curr Obes Rep. 2015;4(1):131-40.

      8.            Vartanian LR, Chen WH, Reily NM, Castel AD. The parallel impact of episodic memory and episodic future thinking on food intake. Appetite. 2016;101:31-6.

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