111弁当箱法(通常バージョン)は以下の5つのステップで行います。
- 目標体重を設定する
- 1日の適正な摂取エネルギー量を見積もる(1食のエネルギー量を決める)
- マイ・ポーションの設定(自分用の弁当箱サイズと重さを決める)
- 自分用の弁当箱を使って食事を作る
- お弁当を詰めた後、キッチン秤を使って重さで調整する
最初のステップとして、減量あるいは健康維持のための目標体重を設定する必要があります。今回は、「1.目標体重を設定する」について、自分の肥満度を確認する方法と、目標体重の設定方法を説明します。 (原理とか細かいことは気にしないからとりあえず始めたいという人は、「3ステップ簡易バージョン」を見てください)
Ver.1.0:2023年7月18日投稿
自分の肥満度を確認しよう
肥満と肥満症の違い
肥満度の説明をする前に、肥満と肥満症の違いについて説明しておきます。肥満学会では、脂肪組織に脂肪が蓄積しただけの「肥満」と、積極的な対応が必要な「肥満症」を区別しています。肥満症とは、2型糖尿病や高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの肥満と関係する健康障害を合併した肥満と、現在は健康障害を伴っていなくても今後健康障害が発生するリスクの高い内臓脂肪型肥満のことを言います。
減量の要否と減量時の注意点
肥満症は積極的な減量が必要ですが、肥満があるだけでは減量が必要とは言えず、例えば健康な若い力士に減量が不要であることがその例です。美容目的の減量においても、現体重と照らし合わせて、本当に減量が必要かどうかやその程度を個々に考える必要があります。少なくとも、過度な減量や急速過ぎる減量は、むしろ心身の健康被害を生じるリスクが高く、リバウンド率も高いため、お勧めできません。
肥満症の方は、肥満と関連する健康障害の管理が必要なため、かかりつけ医と相談しながら減量に取り組む必要があります。通院歴のない肥満の方の場合も、健康障害が発症していないかどうかを、かかりつけ医を作るか人間ドック等で定期的にチェックすることが勧められます。また、希ですが、内分泌の病気や遺伝的疾患、薬が原因の肥満等、「二次性肥満」という病状があるため、減量をしても効果が出ない場合や体調の異常を自覚する場合も一度は病院で相談しておくことをお勧めします。
肥満度の評価
肥満の評価方法には、体格指数 (Body mass index:BMI)や、個人用体重計でも採用されているインピーダンス法、病院や人間ドックなどで使用されるDXA法等がありますが、それぞれの方法には一長一短があります。ここでは、最も簡便でエビデンスの多いBody mass index (BMI)を用いて判定します。
BMIは現体重 (kg) を 身長 (m)で2回割って計算します。例えば、身長170cmで体重80kgの人では、80÷1.7(m)÷1.7(m)で約27.7となり、肥満(1度)と判断します。
日本での肥満の判定基準は、主に欧米人を対象とする世界保健機関(WHO)の診断基準とは若干違います。日本人はBMIが比較的低くても脂肪蓄積による健康障害が生じやすいという特徴があるため、日本ではBMI:25以上を「肥満」としています。更に、BMI:35以上(肥満3度以上)では、それ未満と比べて特有の病態を有し、管理上の問題も異なることが多いため、特に「高度肥満」と判定しています。
BMIでの肥満度評価の注意点
BMIのメリットは、何と言ってもその簡便性と、健康状態との関係を示す科学的根拠が豊富にそろっていることです。一方、デメリットは、体組成(筋肉量や体脂肪率等)を考慮した指標ではないため、個人によっては肥満度を評価できないケースがあることです。例えば、筋肉は脂肪よりも重いため、筋肉質で体脂肪率が低いアスリートなどでは、脂肪の蓄積がなくてもBMIは高くなりますし、高齢者や圧迫骨折で身長が短くなっている人では、体重(脂肪量)が変わらなくても計算上はBMIが大きくなり過大に判定されます。しかし、減量を目的とした場合、そういったデメリットは多くのケースでは問題にならないと考えられます。それは、筋肉質のアスリートが健康維持を目的に減量することは少ないですし、高齢者が減量を必要とする場合は、何等かの健康障害に対する治療目的で主治医管理の元で行われることが多く、BMIによる肥満度評価については既に医療者によって修正解釈されていると想定されるからです。
目標体重を設定しよう
自分に適した「目標体重」は、絶対的なものではなく、年齢や体の状態、目的によって変化しますし、適宜見直して調節する必要があります。とは言っても、一般の方が自分で調整することは難しいものです。今現在に健康被害が無く、今後の健康維持やダイエットが目的であれば、111弁当箱法用に設定する目標体重は [身長 (m)] × [身長 (m)] × 22 として問題はありません(ただし、65歳未満の成人)。肥満関連の健康障害(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症等)に対する治療目的の減量でも、多くの場合は、[身長 (m)] × [身長 (m)] × 22 として良いですが、主治医と相談の上で柔軟に目標体重を調整することをお勧めします。
注意点(絶対に読んでね)
ここで示す計算式は、あくまでも目標体重を最初に設定する時の目安です。絶対的なものではなく、一旦設定したとしても、個人の現体重や、年齢、健康状態、摂食状況、栄養状態、体脂肪率等を考慮して適宜変更したり、段階的に再設定したり、柔軟に調整する必要があります。
65歳以上の高齢者(特に75歳以上)では、不適切に設定した体重を目標にした減量は、むしろ健康障害につながることがありますので、医師や管理栄養士と相談して計画的に減量する必要があります。そのため、ここでは65歳未満の成人を対象者としており、高齢者を対象としていません。
予備知識:より良い減量のために(できれば読んでね)
肥満度を評価するBMIは、先ほども書いたように、BMI = 体重 ÷ [身長 (m)] ÷ [身長 (m)] で計算します。最近まで、このBMIが22となる体重を「理想体重」または「標準体重」として、理想体重 = [身長 (m)] × [身長 (m)] × 22 と計算していました。理想(標準)とするBMIを22としていたのは、日本の職域健診の結果を基に、肥満との関連が強い糖尿病、高血圧、脂質異常症等の10項目の疾病を調べ、BMI 22が最も疾病合併数が少なかったことに由来しています(lnt J Obes. 1991;15(1):1-5)。しかし、検討した疾患に「がん」が含まれておらず、生命予後との関連も検討されていませんでした。近年、長期的な生命予後との関連を検討した研究が報告されるようになり、総死亡リスクが最も低いBMIは35-49歳で22、50-69歳で23、70-89歳で24と年齢とともに増加し、望ましいBMIには20-25の幅があることが分かってきました(Lancet. 2016 Aug 20; 388(10046): 776–786)。そのため、最近は、固定した基準である「理想(標準)体重」を使うのではなく、現体重に基づき、年齢や健康障害、代謝状態等を考慮して、目標とする体重を柔軟かつ段階的に再設定して調節することが推奨されています。
高齢者(特に75歳以上の後期高齢者)では、フレイルや併発疾患、体組成、身長の短縮、摂取状況や栄養状態を考慮して目標体重を設定する必要があり、不適切な減量がむしろ健康障害や要介護となる病状を引き起こすことがありますので、かかりつけ医と相談して適切な目標体重を設定することをお勧めします。
中間目標の設定と適切な減量速度
減量を必要とする人の多くは、特に目標体重と現体重の差が大きければ大きい程、その目標をすぐに達成することは困難です。減量の長い道のりの途中で、順調に減量できているかどうかを評価し、減量方法の修正・見直しをする必要があります。そのためには中間目標が必要です。健康状態の改善を目標とした場合に意義のある減量は、肥満症では現体重の3%以上、高度肥満症で現体重の5-10%の減量とされます。それを当面の中間目標として、3~6ヵ月毎に現状をチェックし、必ずしも6ヶ月以内に中間目標を達成する必要はないですが、減少が進まない場合は、減量方法の見直しが必要です。設定した食事制限が守られているか(お菓子や果物、ジュースなどで知らず知らずにエネルギー摂取が増えていないか)、エネルギー摂取量を更に減らす必要があるか、運動量が減っていないか等を見直して下さい。納得のいく原因が見つからなければ、一つの減量方法に固執する必要はなく、他の減量方法への変更も考えて下さい。
なかなか進まない減量も問題ですが、逆に、過激で急速過ぎる減量は、筋肉量の減少や骨粗鬆症、命に関わるケトアシドーシス、その他の健康障害につながる危険性がありますし、リバウンド率が高いことも知られていますので、目標をはるかに超える減量の程度や速度にも注意する必要があります。
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