―オバマの丸プレートからトランプの逆ピラミッドへ―
米国食事ガイドラインの刷新とMyPlateの終了
2026年1月7日、米国農務省(USDA)と米国保健福祉省(HHS)は、新たな「米国人のための食事ガイドライン(2025–2030年版)」(1)を発表しました。それに伴い、ガイドラインの象徴ともいえる視覚アイコンも変更されています。今回の改訂は、1980年の初版以来、最大級の方針転換とされており、その評価は賛否両論に大きく分かれています。すでに多くの栄養学者や学会、専門機関が見解を発表していますが、本稿ではポーションコントロール(portion control: PC)を扱う視点から、ガイドラインのアイコンがPC法を採用したMyPlateから、非PC型のThe New Pyramidへと変更された点に注目し、その変遷を軸に今回の改訂を説明します。
食事ガイドラインとアイコンの変遷
「米国人のための食事ガイドライン」は、疾病予防を目的とした食生活指針として1980年に公表されて以来、5年ごとに改訂が行われてきました。そして、こうした指針を一般市民にわかりやすく伝えるため、視覚的なアイコンが重要な役割を担ってきました(図)。

1992年に、初の公式アイコンであるFood Guide Pyramidが発表されています。このモデルは、当時の優先課題であった脂質、飽和脂肪酸、砂糖の制限を反映したものでしたが、穀物の質に関する区別がないことや、肉・魚・豆類などが一括りにされていること、さらにすべての人に対して単一の推奨が示されている点などが問題として指摘されていました。
2005年には、これらの課題に対応する形でMyPyramidが導入されました。このモデルでは、年齢、性別、身体活動レベルに応じた個別化が図られ、インターネット上のMyPyramid.gov(現在は閉鎖)を通じて個人ごとの推奨内容を確認できるようになっていました。また、炭水化物の半分以上を全粒穀物から摂取するという具体的な指針が示されたのもこの時期です。さらに、カップやオンスといった家庭で一般的に使用される単位を用いることで、消費者の理解を促す工夫もなされました。しかしながら、MyPyramidは視覚的に複雑で抽象的であったため、専門家にとっても実務で扱いにくく、一般消費者が日常生活に取り入れることは容易ではありませんでした。
こうした課題を踏まえ、2011年には、よりシンプルで直感的なアイコンとしてMyPlateが発表されました。これは欧州で開発されたプレート法を応用したPCモデルであり、「皿の上のバランス」を示すことで、食事内容を直感的に理解できるよう設計されています。当時の大統領夫人であるミシェル・オバマは、公衆衛生活動Let’s Move!の一環としてMyPlateを推奨していました。2011年6月2日の発表時のスピーチでは、「日々の食事を健康的にするためには、シンプルでわかりやすい指針が必要である」と述べ、忙しい家庭でも実践できる現実的な方法としてその有用性を強調しています(2)。
このように、MyPlateは、オバマ政権下で導入され、その後の政権においても発展してきた、消費者志向の食事政策でした。シンプルで直感的なPCモデルとして、実践的な食生活改善を支援し、高く評価されていましたが、第二次トランプ政権が進めるMAHA政策(Make America Healthy Again:アメリカを再び健康に)によって2026年1月にThe New Pyramidへ移行されました(1)。
The New Pyramidの特徴
2026年に導入されたThe New Pyramidは、「Eat Real Food(本物の食品を食べる)」という理念を掲げ、超加工食品、精製炭水化物、工業用種子油、人工甘味料、添加糖類食品を排除する構成となっています。この点は近年の栄養学の潮流と一致しており、一定の評価を受けています。
一方で、このピラミッドの構造には従来と大きく異なる特徴があります(図)。赤身肉を含む動物性たんぱく質や、バター、牛脂といった飽和脂肪酸を多く含む脂質、さらに全脂肪乳製品が上位に配置され、「健康的」と位置づけられています。これに対し、全粒穀物は下位に縮小して配置されています。
更に、The New Pyramidは強い視覚的メッセージを持つものの、MyPlateのように食品群の割合や量を具体的に示すものではありません。そのため、実践的な指針としての明確さに欠け、従来のフードピラミッドへの回帰とも捉えることができます。
新ガイドラインの評価と主要な論点
今回のガイドラインは、「自然食品中心の食事を推奨する」という点においては妥当であり、特に超加工食品への警告を初めて明確に示したことは重要な進展です。また、新鮮な果物や野菜を中心とした食事を推奨し、添加糖や精製炭水化物の摂取制限を強調している点も評価されています。しかしながら、いくつかの重要な問題点が指摘されています。
第一に、動物性たんぱく質摂取の積極的な推奨です。新ガイドラインでは、たんぱく質の推奨摂取量が従来の0.8g/kg体重/日から1.2~1.6g/kg体重/日へと引き上げられています。しかし、赤身肉の摂取増加は心血管疾患、2型糖尿病、および全死因死亡リスクの上昇と関連することが一貫して示されており、既存のエビデンスからの逸脱であると批判されています(3)。
第二に、「健康的な脂質」の再定義と全脂肪乳製品の推奨です。オリーブオイルと並んでバターや牛脂が「健康的な脂質」として位置づけられており(1)、さらに従来推奨されてきた低脂肪乳製品(4)から全脂肪乳製品への転換が示されています。しかし、バターや牛脂は飽和脂肪酸を多く含み、一般に不健康な脂肪とされてきました(5, 6)。これらの推奨は、飽和脂肪酸摂取量の増加を招く可能性があり、飽和脂肪酸を総エネルギーの10%未満に制限するという同ガイドライン内の指針とも矛盾すると、米国心臓病学会からも指摘されています(7)。
第三に、ガイドライン作成過程の不透明性です。通常、米国の食事ガイドラインは、事前に策定される科学諮問委員会の報告書に基づいて作成されます。しかし今回の改訂では、2024年に公開された報告書(4)の内容の多くが採用されておらず、さらに非公開のプロセスでガイドラインが作成された点も批判されています(8)。
まとめ
MyPlateからThe New Pyramidへの移行は、食事の「質」に重点を置く方向へと大きく舵を切るものです。しかしその結果、「どのように食べるか」という実践的な指針が弱まっている可能性が否定できません。また、現在のエビデンスから乖離した推奨事項についても、更なる議論が必要です。米国の食事ガイドラインは、国内にとどまらず国際的な栄養政策にも影響を与えてきました。そのため、今回の大幅な方針転換が健康指標や政策動向にどのような影響を及ぼすのか、今後も継続的に注視していく必要があります。
最後に強調したいのは、MyPlateは米国の食事ガイドラインのアイコンとしては採用されなくなりましたが、世界中で行われているPC/プレート法の有効性が否定されたわけではありませんし、プレート法が無くなったわけでもありません。食事療法の1つの選択肢として在り続けます。我々は、弁当箱栄養管理法を中心に、今後もPC法の情報を発信していきたいと考えています。
引用文献
1. The Dietary Guidelines for Americans, 2025–2030. USDA. (https://cdn.realfood.gov/DGA.pdf) 2026年4月閲覧
2. Remarks by the First Lady at Food Icon Announcement. The White House. (https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2011/06/02/remarks-first-lady-food-icon-announcement) 2026年4月閲覧
3. Gembillo G, Soraci L, Santoro D. Dietary evidence and the 2025-2030 US guidelines. Lancet. 2026;407(10530):757-8.
4. The Scientific Report of the 2025 Dietary Guidelines Advisory Committee. (https://www.dietaryguidelines.gov/2025-advisory-committee-report) 2026年4月閲覧
5. Kim Y, Je Y, Giovannucci EL. Association between dietary fat intake and mortality from all-causes, cardiovascular disease, and cancer: A systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. Clin Nutr. 2021;40(3):1060-70.
6. Zhang Y, Chadaideh KS, Li Y, Li Y, Gu X, Liu Y, et al.Butter and Plant-Based Oils Intake and Mortality. JAMA Intern Med. 2025;185(5):549-60.
7. How Do the 2025-2030 Dietary Guidelines For Americans Measure Up For Cardiovascular Health? American College of Cardiology. (https://www.acc.org/latest-in-cardiology/articles/2026/01/27/16/22/how-do-the-2025-2030-dietary-guidelines-for-americans-measure-up-for-cardiovascular-health) 2026年4月閲覧
8. Hill A, Lurie P, Gostin LO. New dietary guidelines for Americans: a recipe for poorer health. Lancet. 2026;407(10531):831-4.

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